Destruction15―「時間乖離」
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○洋上
海面すれすれの低空を、1機の多肢兵器が衝撃波で海面を割りつつ飛行
している。前回より戦場から逃亡を図り、洋上を1機、遁走する右肩を破損した
ゴウサイバー。その両腕、胸部に小型破導獣ソウバ、ガガバが接続されて
いない本体のみの状態。
黄 金「これでいい」コクピット内。自身の計画成就に満足げに微笑む皇 黄金。
「これで、僕はもう自由…あとは貴様等で勝手に殺し合え」
ボーンの声「――それだけの機体を持ちながら、敵前逃亡の脚としてだけ使用
するか。惜しいな」
唐突のボーンからの通信。一瞬、その表情を強張らせる黄金。刹那、
ゴウサイバーの行く手を遮るように、海面から飛び出してくる三つの影。
ソウバ、ガガバである。
黄 金「何だと…うわ!」
機体に走る衝撃。ソウバ、ガガバがゴウサイバーに、強制的に接続して
きたのだ。罪人が両腕を抑えられたのごとく、ゴウサイバーの震える両腕が
強制的に広げられる。
黄 金「コ、コントロールが!?」
操縦桿をガチャガチャ動かす黄金。だがその操縦を受け付けることなく、
ソウバ、ガガバが接続した完全状態にて、洋上を空中静止している
ゴウサイバー。だがその機体は拘束され、コントロールは今や黄金から完全に
奪われている。
黄 金「サイレント・ボーンストリング、貴様か!」唸る黄金。「離せ!」
ボーンの声「その機体、姉さんが持てるすべてを注ぎ込んだ、ザンサイバーの
機体性能を凌駕するに至った破導獣の完成体。本物のブラック・スフィア
さえ組み込んでいればまさに世界の覇王として君臨できるほどのポテンシャル
を秘めているだろう…ただし」嘲るような声。「パイロットがその能力を
100パーセント出し切れていない。それが君のパイロットとしての限界だな、
皇 黄金」
嘲るように、そしてあくまで冷酷な口調に、黄金の顔が蒼白になる。
ボーンの声「だが…不完全な複製としての君の身体には、幸いその四肢を動かす
ための機械が埋め込まれている。その気になれば、斬馬 弦を相手に素手で
戦えるほどの超人として戦えるだけの能力がな」
恐怖に駆られたように、自身の両腕を抱きしめる黄金。
黄 金「やめろ! 僕とお前の約束は、お前に勝利を与え僕は自由を得ること、
もうお前とは何の関係もない!」
ボーンの声「しかし、姉さんの残したその機体までくれてやるというのは契約
に入っていない。せっかくだから、もうひとつ手伝ってもらえないか? 最後
の仇敵、ザンサイバーの相手をしてもらうことをな…」
刹那、黄金の肉体に走る電撃的な衝撃。
黄 金「やめろーーーッ!」
○サブタイトル「Destruction 15 時間乖離」
○洋上、巨大要塞島
遮那・モノローグ(以下M)「想像を絶する光景、とはこのことだろうか?」
上空。人型多肢兵器ロイ・フランメのコクピットにて、眼下の圧倒的な光景を
凝視している遮那。応急処置的に左肩に巻かれた、血の染み込んだ包帯が
痛々しい。
巨大戦艦烈華翁の墜落を受け、大被害を受けたと思われた要塞島。その
烈華翁の墜落を受けた箇所、地下から“何か”が盛り上がり、烈華翁の巨体を、
その艦橋と言える人型の半身を中心に持ち上げようとしている。
ギギギ…、下方からの無理な圧力を受け、へし折れかける烈華翁の艦体。
構わず、その烈華翁の中枢――巨大な人型の半身を持ち上げるかのように、
“地下から生えてきた構造物が姿を現そうとしている”。
遮那・M「この光景を前に、私が言えることはただひとつだ。――三枝小織
博士の生み出した巨大戦艦烈華翁は、今、こうしてサイレント・
ボーンストリングに奪われるために、この要塞島に誘われたのだと」
○ケアクエイル
ICONS飛行要塞ケアクエイル。指令室にてその様を見つめる藤岡と
指導者イオナ。
イオナ「――そういうことか!」珍しく、声を荒げる指導者イオナ。「ボーン
…いえ、西皇 静…。どこまで、どこまでも他者の築き上げてきたものを、
恥ずかしげもなく我が物としようというのか…」
○洋上、巨大要塞島
ついに、ふたつにへし折れる烈華翁の艦体。その間の中枢を持ち上げる巨大
構造物が、その姿を現そうとしている。その二本の巨塔という存在感は、
人型の半身という烈華翁の艦橋を支える“両脚”のごとく。
旧ICON要塞島を突き崩し、屹立しようとする…人型に変じている烈華翁。
藤 岡「なにを突っ立っている、斬馬 弦!」
弦 「――っ!」
上空のザンサイバー。なす術もなく宙空から烈華翁屹立の様を前に茫然と
している弦に、ケアクエイルより藤岡の檄が飛ぶ。
藤 岡「目の前の光景が尋常な事態に見えるか? あれが何かは知らんが、
完成しないうちに叩き潰せ!」
弦 「――その通りだぜ、藤岡のおっさんよ。目ェ覚ましてくれたことに
感謝するぜ!」
藤岡からの通信に、再び弦の闘志が点火する。その手に巨斧――戦刃
クロスブレイカーを抜くザンサイバー。そのザンサイバーに、後方から合流
する3機の機体。遮那のロイ・フランメ、蘭子のロイ・フォウドレ、そして
黒鬼駆る魔王骸。
黒 鬼「斬馬 弦、来たぞ――」
眼前にそびえる、異形の巨体を蠢かせる烈華翁と、その烈華翁を囲むように
出現する、邪獣骸を始めとした無数の無人兵器群。
視線を移すと、要塞島の周囲の海上に集まった〈亀甲船〉、そこから続々と
宙へと出撃してくる邪獣骸、空骸邪といった無人兵器。
弦 「くそっ、何だか知らねえがやるっきゃねえか」
黒 鬼「露払いは我々がやる。貴様はまっすぐ烈華翁を目指せ」
遮 那「あの小悪党に、今までの借り、存分に返してきなさい」
負傷した左肩の傷が痛々しくも、あくまで毅然と告げる遮那。
蘭 子「援護は任せて!」
弦 「上等! ――手前ら全員、死ぬんじゃねえぞ!」
弦、咆吼。敵機の群れの中に突撃するザンサイバー。3機もその
ザンサイバーへと続く。たちどころにザンサイバーに集中してくる敵機の
火線。続く3機がザンサイバーの後方から援護攻撃を開始する。
弦 「うおおおおおおおッ!」
3機の援護を受け、突撃するザンサイバー。すぐ眼前に立ち塞がってきた
邪獣骸を、手の巨斧にて真っ向から両断する。
○ケアクエイル
指令室。戦闘の最中、烈華翁の変化の様を見つめているイオナと藤岡。
そこへ、指令室後方のドアが開く。その場に入ってくる、遮那によって無事
ケアクエイルへと回収されてきた時実博士。その、指令室の大型スクリーンに
映る光景に唇を噛み締める。
イオナ「時実博士、ご無事で――」
時 実「なんということだ…西皇 静、あんなものまで“再現”する気か!?」
藤 岡「あんなもの?」
時 実「狂えるひとりの老人の、野心と怨念の結実の形だ…」
○洋上、巨大要塞島
斬! 斬!
ザンサイバーの手の巨斧が、ロイ・フランメの手の大剣が、目前に立ち
塞がった敵をそれぞれ斬り捨てた。さらに後方からは、蘭子のロイ・フォウドレ
が撃ってくる重力子弾がなおもザンサイバーに近付こうとする敵機を狙撃し、
魔王骸の両手から投げ放たれたシャドウ・エッジも孤を描く軌道にて次々と
敵機を切り刻んでいく。
弦 「いけるじゃねえか!」気が付けば、烈華翁の巨体と肉薄する寸前と
いう距離にまで近付いてきている。ザンサイバーとロイ・フランメが背中を
合わせた。「あんたもずいぶんやるようになったじゃねえか、誉めとくぜ」
遮 那「調子に乗らないこと」釘を刺す。「長いこと烈華翁に拘束されて、
体力落ちたんじゃないのと思ってたけど…余計な心配だったかしら?」
弦 「野生のケダモノを、いつまでも拉致監禁できるなんて思ってんじゃ
ねえってんだ…この胸クソ悪ィ巨大ブタ箱、ブッ潰して海の藻屑にしてやる!」
瞬間、
弦 「――!?」
その、超高速で突っ込んできた物体を、野生の勘とも言うべき反射神経で
躱すザンサイバー。何事か? とその自機のすぐ脇をすり抜けた超高速の
物体を視線で追う。その物体が、視線の先にある1機の多肢兵器の右腕に
合体する。
小型破導獣ソウバ。つまり、これを腕に合体させた機体は…三枝小織博士に
よる最後の破導獣、ゴウサイバーだ。
弦 「三枝のババァの腰巾着かよ。失せろ、手前の相手じゃねえッ!」
相手の正体を知り、一喝する弦。だが、
ボーンの声「…相変わらず、ずいぶんな言い様じゃないか。斬馬 弦」
弦 「手前ェ…?」そのゴウサイバーから響いた、意外な声に戸惑う弦。
「へっ、三枝のババァのとこと思ったら、イオナを裏切った元腰巾着の方かよ。
なんだ、お前がそいつに乗ってんのか?」
ボーンの声「ご期待に添えなくて悪いが…この機体を操縦しているのは、
間違いなく姉さんの右腕、皇 黄金だよ」
ゴウサイバー、コクピット内描写。うなだれ、疲弊した様子で操縦桿を
掴んでいる黄金。
弦 「腰巾着同士が手を組んだかよ、お笑いだぜ!」
刹那、突如弦の視界から消えるゴウサイバーの巨体。は、と弦が気付いた
ときには、その高空からの強烈な蹴りがザンサイバーを強襲する。
弦 「うお!?」
遮 那「弦くん!?」
一撃で蹴り落とされるザンサイバー。
弦・M「動きが…違う?」
蹴り落とされ、猛烈な勢いで海面へと吹っ飛ばされるザンサイバー。
そのまま要塞島の周囲に集まっていた、海上の1隻の〈亀甲船〉の、甲羅と
いうべき天蓋装甲を激しく砕き叩きつけられる。
弦 「ぐおっ!?」
ボーンの声「注意したまえ、斬馬 弦」呻く弦の目前、ボーンの哄笑を発し
ながら、悠然とザンサイバーの元へ降りてくるゴウサイバー。「忘れたのかい
? この機体は姉さんがザンサイバーや破導獣軍団の開発を元に、自らの
持てる力の頂点として完成させた最強の破導獣。スペックの上なら
ザンサイバーを凌駕する威力を秘めてるんだよ」
弦 「…ざけやがれッ!」
高空から叩きつけられたダメージをものともせず、砕かれた甲羅の上を
立ち上がるザンサイバー。だが、
弦 「――っ!?」
そのザンサイバーの懐に、瞬時に出現するゴウサイバー。弦の目前一杯に
なる、ゴウサイバーの鋭角的な表情。
GAN! GAN! ゴウサイバーの鉄拳が一撃、二撃とザンサイバーの
両頬を強襲。両頬のフェイスガード装甲に亀裂を入れる。
弦 「調子こいてんじゃねェッ!」逆にゴウサイバーに殴りかかる
ザンサイバー。が、ゴウサイバーも思いもよらない速さで後退、ザンサイバー
の拳が空を切る。「何だと!?」
ザンサイバーと距離をとったところで、両腕を大きく左右に振り上げる
ゴウサイバー。その両腕から発射されたソウバ、大きく孤を描く軌道にて
ザンサイバーの背後に回りこみ、交差するように強襲を仕掛ける。
衝撃、弦の呻き声と共に、ついに跪くザンサイバー。
弦 「ちっ、畜生! ――飛び道具だけの機体と思ったら、ガチでも
ザンサイバーの相手になるってかよ!?」
再び響き渡るボーンの哄笑。
ボーンの声「なかなか優秀なパイロットだろう? 皇 黄金、彼もまた姉さんの
作品だけのことはあるということかな」
ゴウサイバー、コクピット内。コクピット内を迸る放電に身を焼かれ、
悲鳴を上げつつ悶絶している黄金。
ボーンの声「姉さんの愛人として生み出された哀れな複製。だが姉さんの
不完全な技術のせいで、その身体は埋め込まれた機械のサポート無しには
立ち上がることひとつままならない。――だが、逆を言えばその機械の部分が
その能力を100パーセント発揮することで、君のような超人的な戦闘能力
を得ることも出来る。もっとも、それだけの能力を出し切れば、身体の生身の
部分は耐えられず焼け焦げてしまうかもな」
弦 「手前ェ――どこまで他人をオモチャにしやがる!」
弦の闘志を受け、立ち上がるザンサイバー。その周囲の、燃えるように高熱
した空気が爆発、その爆発の中から駆け出してくる獰猛なる鋼の四足獣。
ジュウサイバーだ。
ジュウサイバーとほぼ同時、駆け出すゴウサイバー。直径200メートルの〈
亀甲船〉の甲羅をリングに、超高速で激突する2機の破導獣。
超加速により、周囲の時間が制止した世界の中、ぶつかり合う鋼爪と鋼爪、
牙と鉄拳。
弦・M「変形もしねえクセに――ジュウサイバーと互角の速さだぁ!?」
思わぬゴウサイバーのスピードに、内心舌を巻く弦。
一方、ゴウサイバーのコクピット、
黄 金「頭が…頭が焼き切れるゥゥ!」全身のいたるところから血を吹き流し、
絶叫している黄金。しかしその両腕、両脚は自らの意思を離れ、機械的な動
作で勝手に機体を操縦している。「内臓が暴れる…身体が引き千切られる…
僕を、僕をここから降ろせェェェッ!」
一度空中で激しく激突し、互いに離れ、着地するジュウサイバーと
ゴウサイバー。距離を置き、それぞれ身構え、睨み合う2機。
ゴウサイバーが先に動いた。両腕を大きく振り上げ、2機のソウバを
解き放つ。戒めを解かれた猛獣のごとき勢いで飛び出し、ジュウサイバーに
襲い掛かるソウバ。だがジュウサイバーの反応も早い。ソウバが撃ち放たれる
とほぼ同時に駆け出し、一気にゴウサイバーとの距離を詰める。
そのジュウサイバーを正面から襲う衝撃。胸部から飛び出したガガバが、
真正面からジュウサイバーを打ち据えたのだ。
天に腹を向けて、甲羅の上に倒されるジュウサイバー。更に宙空から飛来
したソウバが、ふたつの楔となってジュウサイバーの前肢を甲羅上に固定
してしまう。
弦 「やべえッ!」
ボーンの声「終わりだ、ザンサイバー!」
宙空高く跳ぶゴウサイバー。その右拳を高く宙に掲げる。集中していく
エネルギーに、赤熱する拳。その拳をジュウサイバーに叩きつけるべく
高空から振り下ろしてくる――!
瞬間、高速回転しながら飛来した二枚の刃が、ジュウサイバーを拘束していた
ソウバを弾き飛ばした。魔王骸のシャドウ・エッジだ。四肢に自由が戻るや
いなや、その場から飛び出すジュウサイバー。
インパクト――!
轟………、ジュウサイバーを外れ、〈亀甲船〉の甲羅の中心を直撃した
ゴウサイバーの赤熱した拳。その直撃点から、〈亀甲船〉全体に一気に走る
亀裂、爆発を上げる〈亀甲船〉
黒 鬼「これだけの攻撃力を秘めていたというのか――?」
シャドウ・エッジを手に、空中からその要塞の沈没していく様を見下ろす
魔王骸。直径200メートルの要塞が、そのゴウサイバーの拳の一撃で沈め
られたのだ。既にソウバ・ガガバ共に再合体し、空中から渦巻く海面を見つめる
ゴウサイバー。と、
ザバァッ、渦巻く海面の中心から、突如姿を現わすザンサイバー。その額、
主砲のロックパーツが解放され、エネルギーを漲らせた状態。
弦 「おかげでエネルギーは充分溜まってるぜ…」
ゴウサイバーを見上げ、にやりと微笑む弦。
轟――ッ! 主砲発射、撃ち放たれた燃える爆流がゴウサイバーを急襲!
だが、
弦 「ゲッ…!?」
目前の光景に呻く弦。またもゴウサイバーの胸から分離したガガバが、
自体を中心に半球型のバリアを形成、ザンサイバーの主砲エヴァパレート・
インフェルノの爆流を分散、受け流してしまったのだ。しかもそのエネルギー
の結界に守られ、当のゴウサイバー本体に攻撃は届かない。
ボーンの声「見たか、ザンサイバー! これがゴウサイバーの真の力だよ!」
勝ち誇るボーン。「小型破導獣であるガガバは擬似ブラック・スフィアに
よって得られるエネルギーを防御力に特化し、ゴウサイバー本体は攻撃力に
特化した機体。さらに両腕のソウバによって立体的に攻撃を仕掛けることが
できる。流石は姉さん、流石は三枝小織博士、素晴らしい遺産を残して
くれたよ。――闇雲に威力を揮うしか能のないザンサイバーなどとは、出来が
違う!」
弦 「こっ、この野郎!」
ボーンの声「はてさてどうする? 同じ破導獣としてはもはやこの
ゴウサイバーのほうが上。しかし破導獣の天敵たるSIDE-Bに反転しようにも、
両肩のアクセラレイトプラズマエンジンを潰されてはそれもままなるまい」
大きな銀色の傷跡が残るザンサイバーの両肩。カットバック、ゴウサイバー
との初戦にて、両肩を破壊されてしまうザンサイバー。これにより両肩に
内蔵されたアクセラレイトプラズマエンジンが破損し、ザンサイバーは
対破導獣必殺形態SIDE-Bへの反転が塞がれている。
弦 「――抜かしやがれ。元祖破導獣の恐ろしさ、そのトンガったツラに拳で
ブチ決めてやらあ!」
拳を固めるザンサイバー。背部ブースター点火、再び空中に躍り出る。
再度の空中戦。あくまで接近戦を仕掛けるザンサイバーに対し、両腕の
ソウバを仕掛けるゴウサイバー。その高速機動に邪魔され、ゴウサイバーに
近付けないばかりか、しかも先端の鋼爪という攻撃力を持っている分始末が
悪い。周囲を飛び回り、幾度となく強襲してくるソウバに手を焼く
ザンサイバー。
弦 「糞ったれが!」
右腰からワイバレル、左腰からエクスバレルを抜く。この二丁の大型拳銃の
正式名称はトゥラジティー・オブ・ワイとトゥラジティー・オブ・エックス。
まさに縦軸と横軸、交差する悲劇、十字砲火(バスター・クロス)。
その二丁の怒れる悲劇のトリガーを引くザンサイバー。GAOM!! ワイ
バレルから一直線に迸る徹甲弾が、エクスバレルから電光の尾を引く散弾が
それぞれゴウサイバーへと向かって撃ち放たれる。だが、
BOW…! ゴウサイバーより分離したガガバが結界展開、その必殺の銃弾の
嵐すら遮られてしまう――!
弦 「こいつも駄目だってのか!?」
こちらの攻撃を塞いだと見るや、ガガバの陰から反撃に転じてくるゴ
ウサイバー本体。その赤熱した拳を再び揮ってくる。
轟――ッ! 寸前で躱したものの、そのスピードと拳の威力に伴う衝撃波
だけで吹っ飛ばされるザンサイバー。更に、吹っ飛ばされたところに
強襲してくる2機のソウバ。
弦 「ぐっ!」
衝撃を覚悟して呻く。と、そのソウバの真横に直撃する射撃。ザンサイバーに
ぶつかる寸前で軌道を逸らされるソウバ。
ソウバを狙撃した方向を向く弦。その視線の先にいる、両腕のエネルギー砲を
撃った直後の、腕を伸ばした姿勢の魔王骸。
弦 「黒鬼ィ、邪魔すんなッ! こいつは俺が――」
黒 鬼「勘違いするな斬馬 弦!」
要塞島に居座る烈華翁を指す魔王骸。何たることか、その魔王骸の両脇に、
要塞島から更なる構造物が二つ、要塞そのものを突き崩しながら生えて
きていた。しかも、それは緩慢なる動きにて、今度は烈華翁の両脇から
被さろうとしている。
弦 「まだ何かやる気なのか!?」
黒 鬼「気付け! こいつの狙いは、貴様を烈華翁から遠ざけるための
時間稼ぎだ!」
弦 「!」
黒 鬼「我等の狙いは、あくまで烈華翁とそれを牛耳ったサイレント・
ボーンストリング。 こんな三下と、1対1の対決などしている義理はない
――さっさと片付けるぞ」
そこへ追いついてくる、ロイ・フランメとロイ・フォウドレ。
遮 那「弦くん、ブーステッド! 合体なら奴のスピードに追いつける!」
弦 「ちぃっ! ――こんな三下相手に、女の手ェ借りなきゃならねえかよ!」
文句を垂れつつ、飛行形態に変形したロイ・フランメと合体するべく飛行
軌道を合わせる。
ボーンの声「させん!」
合体を妨害するべく、2機を追うゴウサイバー。だがロイ・フォウドレが
専用銃フォウドレ・フシルレズより重力子弾を、魔王骸が黒刃シャドウ・
エッジをそれぞれ放ち援護する。
ガガバを分離させて結界形成、たやすく弾かれる重力子弾。その隙に合体
しようとする2機に向かってソウバを放つゴウサイバー。
だが、放たれた2枚のシャドウ・エッジのうちの1枚が大きく孤を描く軌道を
取り、結界の外を抜けてゴウサイバーに向かう。一瞬、ガガバの結界を抜けた
シャドウ・エッジがゴウサイバー本体の左腕を掠め、その装甲に切り傷を付ける。
その“意外”な光景に、仮面の奥で目を見張る黒鬼。
黒鬼・M「傷つく!? ――二次元絶対シールドで守られているはずの
破導獣が?」
一方、ソウバに集中攻撃を受けているザンサイバー。足止めを喰らい、
合体軌道を狂わされ、その間にも遮那のロイ・フランメがザンサイバーを
追い越し遥か先へと先行してしまう。
弦 「くっ、くそっ! さっきからチョロチョロ邪魔くせェッ!」
そこへ駆けつけてくる魔王骸のシャドウ・エッジがソウバを弾く。
黒 鬼「斬馬 弦、乗れ! フランメを追う!」
魔竜形態、魔竜骸へと変形。その背に飛び乗るザンサイバー。加速する。
弦 「うひょーーーッ!」
黒 鬼「斬馬 弦、よく聞け。あの機体は――」
自らが気付いた、ゴウサイバー攻略のポイントを伝える黒鬼。
飛行形態のロイ・フランメに追いつく魔竜骸とザンサイバー。ザンサイバー、
そのまま魔竜骸の背の上に二本の脚で立つ。
遮 那「遅い」
弦 「そっちが飛ばし過ぎだ!」
機首部分を発射するロイ・フランメ。そのまま分離した機首と機体本体が、
ザンサイバーを挟んで合体…完成するブーステッド・ザンサイバー。
両翼のウルティメイトイオン・ブースターが吼えた。急上昇、戦場の空に
厚く張った雲へと飛び込む。
ボーンの声「逃がさん!」
追い、急上昇を仕掛けるゴウサイバー。そのコクピット内、全身から血を
吹き流しつつ、強烈なGに表情を歪ませる黄金。
厚く張った雲を突破し、蒼空と陽光に彩られた雲海へと飛び出す2機。
超高速の追撃戦、ブーステッド・ザンサイバーの後方を追うゴウサイバー。
ソウバを放とうにも、ここまで加速してはむしろソウバでは追いつけない。
ボーンの声「ならば、追いついて一撃与えるのみ」
ゴウサイバー、急加速。先を逃げるザンサイバーと距離を詰め、赤熱させた
拳を叩き込もうとする。が、
ボーンの声「!?」一瞬、目を見張る。後方から追う視界の中、ブーステッド・
ザンサイバーから飛び出す人型の機体。そのシルエットが振り向き、手にした
武器を構えようとする。「緊急分離して虚を突いたつもりか――馬鹿め!」
逆に制動がかかり、こちらの攻撃が届きやすくなっただけだ。ソウバ・
ガガバ分離。その敵機の投げ放ってきた攻撃を弾き返す。だが、
ボーンの声「なに……!?」
分離したガガバの張り巡らせた結界により、弾き返されたのは…シャドウ・
エッジ。攻撃していたのは――、
ボーンの声「魔王骸だと!?」
目を見張る。その魔王骸の手元に戻る二枚の黒い旋刃と、ザンサイバーと
誤認して発射し、超高速で迫っていく2機のソウバ。
斬! 斬――! 魔王骸へと殺到したソウバが、その手にしたシャドウ・
エッジにて裂かれた。爆発、
そして――、
分離したガガバとゴウサイバーの間に入ってくる…ブーステッド・
ザンサイバー!
ボーンの声「先行していた魔王骸を…機体の陰に隠したたまま飛んでいたと、
いうのか?」
弦 「――気付くのが遅せぇっ!」
ガガバとゴウサイバー本体の間に挟まれた体勢にて、今度こそ緊急分離する。
ザンサイバーとロイ・フランメ、それぞれが巨斧と大剣を抜いた。
ザンサイバーが後方を向けたガガバに、ロイ・フランメがゴウサイバーの
真正面からそれぞれ斬りかかる。
斬――ッ! ドーム状結界に守られていない後方から、戦刃クロスブレイカー
にて真っ二つに両断されるガガバ。
斬――ッ! その拳が赤熱するより早く、右腕を斬り落とすフランメ・
ブリセウアー。そして、返す刀で胸部獣面を斬り裂く。
ゴウサイバー・コクピット内。小爆発が起き、計器類が弾け跳ぶ。その
巻き起こった炎に晒され悲鳴を上げるボロボロの黄金。
黒 鬼「やはり…攻撃力のみに特化したことこそが、この機体本体の弱点!」
遮 那「SIDE-B同様、擬似ブラック・スフィアのエネルギーのすべてを攻撃力
に回したため――本体から二次元絶対シールドを捨て、防御をすべてあの
小型破導獣に回したのね」
カットバック。先程の魔王骸との戦闘、シャドウ・エッジの旋刃に傷つく
ゴウサイバーの腕の装甲。
ボーンの声「やってくれたな…ザンサイバー、そして黒鬼」
そして、黒煙に包まれるゴウサイバー・コクピット。
黄 金「グフゥッ!」
血塊を吐き、うなだれる黄金。正面コンソールに突っ伏した血まみれの身体が
痙攣し、もはやその肉体が死を迎えようとしているのは明らかな状態。しかし、
なおも両腕と両脚は力強く突っ張り、操縦桿とフットペダルを支えている。
ボーンの声「――ついに、その身体の生身の部分が限界を迎えたようだな、
皇 黄金」
黄 金「嫌だ…僕は、僕は生き残って…自由に…降ろ、せ…たすけて…」
ボーンの声「いくらでも自由になるがいい――ザンサイバーのいない世界でな」
瞬間、身体になんらかのスイッチが入ったかのごとく、ビクン、と上体を
跳ね上がらせる黄金。
黄 金「…やめろーーーッ!」
絶叫。刹那、全身を赤熱させるゴウサイバー。ボディそのものが炎に
包まれる。全身に破壊のエネルギーを漲らせた、文字通り火の玉状態と
なったのだ。
黄 金「ぼ…僕の身体が…焼ける…バラバラに…」
灼熱のコクピットの中、もはや掠れて消える黄金の声。
火球と化したゴウサイバー、そのまま流星もかくやという勢いでザンサイバー
ら3機を狙って特攻してくる。
黒 鬼「散れッ!」
黒鬼に指図されるまでもなく、分散して躱す3機。目標を外された流星、
そのまま雲海の底を突き抜けて、超速にて海面に激突する。
轟……!
海面に立ち昇る、巨大なキノコ雲。巻き起こった大津波が、要塞島とそこに
屹立する烈華翁を容赦なく襲う。
そしてキノコ雲の中から、何事もなかったかのように再び飛び出してくる
流星。なおも雲の下に降下してきた3機を狙って一直線に飛ぶ。
黒 鬼「西皇 静め、あの機体の擬似ブラック・スフィアを暴走させたな」
弦 「追い詰められたらヤケクソで火の玉特攻かよ。いいねえ、そういう
根性大好きだぜ」
遮 那「馬鹿っ! あんなのにぶつけられたらひとたまりもないわよ」
再び特攻して来る火球化したゴウサイバーをかろうじて躱すザンサイバー、
ロイ・フランメ、魔王骸。
弦 「ンの野郎ォッ!」
火球が迫るのを待って、パワーチャージしていた主砲を撃った。だが、
火球を包む炎そのものが障壁となり、エネルギーの爆流が霧散されてしまう。
弦 「煮ても焼いても喰えねェたぁよく言ったぜ!」
遮 那「弦くん、もう一度合体!」
弦 「はあ?」
遮 那「奴がまた来る前に、早く!」
遮那の叫び。その声に応じ、再合体するブーステッド・ザンサイバー。
その間にも、火球化したゴウサイバー、大きく孤を描いてUターン、再び
こちらに突撃を仕掛けてくる。
遮 那「行くわよ!」
弦 「どうすんだよ?」
遮 那「君の大好きな方法でカタを着けるわよ――奴に、正面からまっすぐ
突っ込みなさい!」
弦 「マジかよっ!?」
遮 那「ビビったの!?」
弦 「死ぬほど嬉しいぜッ!」
とんでもないことに、嬉々とした表情にて機体を加速させた。三度の特攻を
仕掛けてくるゴウサイバーに対し、正面からまっすぐ突っ込んでいく
ブーステッド・ザンサイバー。その鋭角な機首に、淡い輝きが集中していく。
遮 那「二次元絶対シールド、機首に集中。衝角状フィールド形成…いける!」
弦 「特ッ攻み勝負! 俺が散るか手前が散るか、オラァァァッッッ!」
一瞬の衝撃――!
ゴウサイバーの火の玉特攻に対し、機体そのものを超高速の槍と化した
ブーステッド・ザンサイバーが正面から貫き、四散させた。宙空に咲く爆発の
大輪――。
○烈華翁、指令室
ボーン「上出来だ…よくやった、皇 黄金」
ほくそ笑むボーン。
○要塞島上空
ザンサイバーを含む3機から、置いていかれた格好のロイ・フォウドレが
3機に合流しようと近付く。
蘭 子「弦くん、叶司令補!」
分離しているザンサイバーとロイ・フランメ。さすがにザンサイバーほど
頑丈な機体でないためか、無傷のザンサイバーに対して機体のあちこちが
傷ついたロイ・フランメが肩を借りている。人型に変形し、今は背後に
折りたたまれている機首に至っては先端から大破していた。
弦 「…あんたも相当無茶を考え付きやがる」
珍しく、遮那を気遣う様子の弦。
遮 那「仕方ないでしょ。君の、相棒…なんだから」
弦 「……」カットバック。“十字の檻(クロスケイジ)”の通路を、
今と逆に彼女に肩を貸してもらっている弦。「…言ってやがれ」
黒 鬼「月島、貴様は叶の機体を連れてケアクエイルに戻れ」蘭子の到着を
待って、黒鬼が告げた。「斬馬 弦、急いで烈華翁に」
その時、
GUOOOOOOOOOOOOOOO!!
洋上の戦空に響き渡る、あまりに、あまりに巨大な咆吼、
黒 鬼「――しまった!」
○ケアクエイル
藤 岡「まんまと時間稼ぎを許してしまった――」
愕然となっているイオナの隣にて、呻く藤岡。
○要塞島
GUOOOOOOOOO……!!
なおも響き渡る巨大な咆吼。烈華翁である。その胸部獣面、双眸は獰猛な
光を放ち、口腔からは世界すべてを揺るがすほどの巨大な咆吼が、大気を
震わせながら放たれている。
その腰から下、そして両脇を支える、要塞島から生えた構造体が、抜け殻の
ごとく弾け跳んだ。要塞島の表面に崩れ落ちていく瓦礫。そして、構造体の
中に隠されていた、今は烈華翁に接続されている“巨大な手足”が顕になる。
ゴゴゴ…、その駆動構造を軋ませ、圧倒的なまでに巨大な腕が動いた。
天に何かを乞うように、掌を空に向け、その上体も空に向けて逸らし、そして
また大きく吼える。
その、あまりに巨大なる――人型多肢要塞の誕生に、その場にいる者すべての
目が奪われていた。
哄笑が聞こえる。それは、生誕したばかりの烈華翁の産声とも言える方向に
比べればあまりに小さい。だが、その戦場にいるすべての者が確かにその
笑い声を聞いていた。
サイレント・ボーンストリング――西皇 静の哄笑を。
ボーン「遅かった…遅かったなあ、指導者イオナ、そしてザンサイバー!」
イオナ「西皇 静! よくもそんなものを――!」
ボーン「これぞ烈華翁の真の姿、超巨大人型多肢要塞、鬼神天帝・烈華翁!」
烈華翁の頭部指令室にて、勝ち誇った哄笑が止まらないボーン。
そして、烈華翁の頭部。その眉間の部分に、内部から剥き出しの機械部分を
割るように小さな透明のドームが突き出てくる。あたかも、その小さな半球が
烈華翁の双眸に挟まれた第三の目とばかりに輝く。
時 実「あれは――?」
ボーン「そして、この鬼神天帝の動力を司る――真ブラック・ファイア
プレイスよ!」
時 実「馬鹿な、烈華翁の動力は――!」
前回回想カット。黒鬼と時実博士の手により爆破される、烈華翁の動力
ブラック・ファイアプレイス。
蘭 子「――っ!?」突然、背筋に寒気を覚え、身震いする蘭子。鼓動が
跳ね上がり、身体の奥から悪寒が止まらない。「この感じ…一体?」
弦 「――ケッ」なお、臆することなく烈華翁を敵意の視線で睨む弦。
「こけおどしのウドの大木の割にゃ、ずいぶん可愛い動力源じゃねえか…。
上等、そのちっこい乾電池、ブチ砕いてやらぁッ!」
黒 鬼「待て、斬馬 弦」
轟――! 黒鬼の制止も聞かず、背部ブースターを噴かすザンサイバー。
巨斧を抜き、突撃を仕掛ける。一直線に烈華翁の顔面まで飛び、手にした
巨斧を揮おうとする。
だが――、
弦 「な…?」
突如、背のブースターの炎が消えた。内蔵したブラック・スフィアによる
慣性制動により、烈華翁の顔の直前まで近付いたところで突如機体が急停止。
そして、
弦 「くっ、くそっ、どうして動かねえ!?」
焦る弦。機体の突然の制止と同時、操縦桿が固まったのだ。弦の操作を
受け付けず、烈華翁の顔面直前で静止したまま、完全に機体がフリーズして
しまうザンサイバー。
ボーン「ザンサイバーに烈華翁を――真ブラック・ファイアプレイスを傷つける
ことは出来んぞ、斬馬 弦…」
烈華翁の巨大な手が、再びザンサイバーを捕まえる。たたでさえ機体が
フリーズしている状態で、文字通り手も足も出ない。
弦 「畜生!」
ボーン「よく見るがいい…真ブラック・ファイアプレイスの実態をな」
言われるままに、その眉間の第三の目を凝視する弦、そして、
弦 「な……に?」
驚愕する。直径数メートル程度といった透明のドームという第三の目、
真ブラック・ファイアプレイス。その中心、機械に囲まれるように収められて
いるのは…、
蘭 子「そんな!」
イオナ「西皇 静ァーーーッ!」
イオナですら怒りを顕にした。
その、真ブラック・ファイアプレイスに組み込まれている、ひとりの少女
は……、
弦 「……昴」愕然と、弦、呻く。「……昴ゥゥゥゥゥッ!」
その第三の目の中に捕らえられているのは、“進化の刻印”と呼ばれた運命の
少女、斬馬 昴――!
響き渡る、勝ち誇ったボーンの哄笑。
ボーン「愉快! 実に愉快! 法悦至極の至りよ! 見たかった…お前のその
苦痛の顔が見たかったぞ、斬馬 弦!」
時 実「西皇 静! 貴様…!」
ボーン「ほう、時実…」その時実博士に対し、心底侮蔑したような、
冷ややかな声を漏らす。「この“儂”に対して、ずいぶんな口を利くように
なったではないか」
時 実「何――?」
ボーン「小織めは貴様の正体を掴みあぐねていたようだが…」くっくっ…、と
笑う。「愉快な話よ…この儂同様、こんなひっくり返った世界に未練がましく
姿を現わすとはな」
時 実「何を…言っている?」
ボーン「知れた話よ。まさか、“かつての世界”の記憶を持つ者が、自分
ひとりだけだとでも思っていたか?」
時 実「な――!?」言葉を失う時実。「貴様…まさか…」
言葉を震わせる時実に、満足げに薄く笑う。
サイレント・ボーンストリング。その実体は西皇浄三郎48人の子供の
ひとり、西皇 静。だが、時実ひとりが、“時実だけが”気付く。
この、整った顔立ちの、金髪碧眼の青年の“真”の正体は――、
ボーン「前世での戦いにて、儂は野望成就のあと一歩まで近付きながら
ザンサイバーに潰された…くくくっ、思い返しても心地よい戦いよ。あれだけの
充実感の中で死ねたのもまたよし」
ボーン、回想。自身の視点。視界の中のザンサイバーに、手にした小銃を
撃ち放っている自分の手。しかしザンサイバーの額の主砲が火を噴く。閃光に
満たされる世界――。
ボーン「――だが、よほどこの世に未練があったのか、気が付けば齢90を
過ぎた老いぼれの魂と記憶は、生まれたての赤子に受け継がれ輪廻転生を
果たしおった。――儂がザンサイバーに潰されるその日の、20年も前に、な」
弦 「な…に…?」
ボーン「よもやこの儂自身が、“この世界での儂”の落とし種として生を
受けるとは愉快な話よ。神も仏も信じぬ儂が、何故輪廻転生などという
やり直しの好機に恵まれたのかは知らん。だが、はからずも生まれ変わった
若い肉体を手に入れた儂は、まずは儂を含む48人の殺し合いに生き残り、
そして目の上の瘤である“この世界での儂”を殺した。――黒鬼、貴様にも
一役買ってもらったがな」
カットバック、黒鬼の手による、西皇浄三郎暗殺。
黒 鬼「…この俺に、西皇浄三郎暗殺の好機の情報を流したのは貴様か」
時 実「ありえない――」頭を抱え、その場に跪く時実。「別の世界の人間
とはいえ…“自分自身”を暗殺したと…言うのか?」
弦 「――くっ、くそッ!」張り詰めた空気を破るように、唸る弦。
「手前らァッ、ナニさっきから訳わかんねえ話ィゴチャゴチャ抜かしてやがる
! コラそこの元腰巾着、ジジィ口調でヨタ話ブッこいてんじゃねえよ
! 昴を――返しやがれ!」
さすがに、その元気な叫びに、目を歪ませるボーン。
ボーン「ほう…まだそこまで元気が有り余っておるか」
弦 「昴ッ! 目ェ覚ませ! 俺が、俺が今助けてやるッ…!」
あくまで、真ブラック・ファイアプレイスのみに視線を向け、吼える弦。
ボーン「…ふん、今この手でくびり殺してやっても良いが、それでは楽しみが薄れるというもの。――あの小うるさい坊主を引きずり出せ」
その、ボーンの言葉と同時、ザンサイバーの胸部獣面の額――コクピットの
収納部分の装甲が大きく開放された。
GOW、と強烈な風が剥き出しになったコクピット内に吹き込む。
ボーン「斬馬 弦! 我等が因縁の地にて不可侵戦域、日本アルプスまで来るが
よい! だがザンサイバーは貰っておくぞ、せいぜい手札を用意してくる
ことだ!」
瞬間、自身が認識する間もなく、風の中に放たれる弦。生身の身体のまま、
大空に放り出されたのだ。
弦 「昴…昴ゥゥゥッッッ――!!」
遠のいていく妹に手を伸ばす。だが、もうその手は届かない。
生身の全身に吹き付ける風の中を、重力のままに落下していく弦。その落下が
突然受け止められる。
駆けつけたロイ・フォウドレの手に拾われたのだ。
蘭 子「あれは…」呆然と、烈華翁を見上げ、呻く。「本物の、昴さん…なんと
いうこと…」
その目前にて、両掌を左右に広げる烈華翁。
ボーン「世界よ、今ここに宣言する!」掌に溜まっていく、プラズマの火花と
光の粒――、「この儂は、今甦ったぞ! この世界最後の覇者――西皇浄三郎
がなッ!」
ボーン、哄笑。そして、烈華翁の両掌から放たれるエネルギーの爆流…
自身の立つ、要塞島そのものに向けて!
閃光に染まる世界――、
轟……、海面に上がる、先のゴウサイバーによるものよりも遥かに大きい
キノコ雲。鬼神大帝となった烈華翁から放たれた爆流が、旧ICONの居城、
要塞島を完全に消滅させたのだ。
ズン…ズン…、残った数隻の〈亀甲船〉を引き連れ、その腰から下を海に
沈めたまま、洋上を悠然と往く烈華翁。
ボーン「もはや、残るは日本アルプスの遺跡のみ」勝者の笑みを浮かべる。
「――待っているがいい、“進化の刻印”をそちらに連れて行ってやるぞ…
ブラック・スフィアの遣い、柾 優」
○日本アルプス
吹雪吹き荒れる山岳。白く雪に埋もれた雪原、そこに散らばっている、
無数の残骸。それは破導獣軍団のものであり、そしてまたは無人兵器群のもの
である。
ふたつの勢力の機体による軍勢が、すべて残骸と化して節減に倒れ、雪の
中に埋もれようとしている。
ギギ…、1機、うつ伏せに倒れつつもまだ動く邪獣骸が、その震える両腕を
支えに立ち上がろうとする。その背中を、長く爪を伸ばした巨大な手が叩いた。
爪を伸ばした手に、下半身には足が存在せず蛇のごとく長い尾で地上を
這いずり回る異形の機体。だが、その背中には鎌のような副肢を持った。
赤黒い不気味な構造が背負われている。
その臓物のごとき構造が、嘴を伸ばして動きを抑えた邪獣骸の背中を襲った。
嘴から注入された酸が装甲を溶かし、ジワジワと邪獣骸の機体を侵していく。
次元波動幻影傀儡抗体<コーパスルズ>。ザンサイバーの仇敵にて、地球にて
もうひとつのブラック・スフィアを孕むイレギュラーたる機体、波動銀凰
ガイオーマがその能力にて生み出す自身を護るための抗体。そして、その1機
だけでなく、雪原に蠢く無数のコーパスルズの群れ。
異変が起こった。たった今息の根を止められたものを含め、その場の多肢兵器
の群れの残骸が吹雪に飛ばされるように舞い上がり、そして引き付けあうかの
ように幾つかの塊へと集中。金属が不気味に歪み、潰れ、蠢く音を響かせ、
異形のカタチ――周囲に集まったものと同様のコーパスルズとして結び
ついていく。
敵機の残骸を礎に、その場に生誕する、また数十機のコーパスルズ。そして、
その中心に君臨するものは…、
ガイオーマ、である。吹雪の中、雪原に蠢く自らの軍勢を睥睨し、その翼を
広げ雪原上に立ち尽くしている。
優 「――愚かなる軍勢が。ここまで辿り着くことを許されるのは、“進化の
刻印”を連れた最後の覇者のみ」
冷ややかに呟く、ガイオーマのパイロット…柾 優。
優 「弦…お前は辿り着けるか? この最後の、約束の地まで」
その、ガイオーマの翼の背、吹き荒れる吹雪の中、大きくそびえ立つ白い
ドーム――。
○洋上
何機かのICONS飛行要塞が、ケアクエイルを中心に集結、洋上にその翼を
浮かべている。
ケアクエイル。
弦 「畜生! 畜生! なんだってんだあの腰巾着! あんたとどういう
関係だよ、えぇ!?」
蘭 子「弦くん! お願いやめて!」
敗北感に打ちのめされ、時実の襟首を掴んで当たり散らしている弦。その弦に
すがりつき、必死で止めようとしている蘭子。
弦 「畜生! あいつのせいで昴が…! 手前ェ、あいつの知り合いだ
ってんなら言え! あいつはどこだ、昴を連れてって、ナニ企んでやがる!?」
蘭 子「弦くん!」
刹那、
パン! 弦の頬から、乾いた音が響いた。藤岡が興奮している弦の頬を
張り飛ばしたのだ。
藤 岡「…頭を冷やせ。貴様も聞いただろう、奴の行き先ははっきりしている」
時実博士から手を離し、無言になる弦に、冷ややかに告げる。「あの、世界が
三枝博士と西皇 静の軍勢に焼かれた日から、何者も立ち入ること叶わず
閉ざされた雪原。――不可侵戦域、日本アルプス。そしてザンサイバー覚醒と
共に姿を現わした白い遺跡」
弦 「何……?」
藤 岡「そして……その凍てついた不毛の地に居座り、幾度となく進入を
試みる軍勢から遺跡を、ブラック・スフィアの意思を守る者――波動銀凰
ガイオーマを操る柾 優」
弦 「――っ!?」
衝撃を受ける弦。
黒 鬼「…時実博士。どうやら事態は、我々が修正しようとしてきた方向を
大きく逸脱して進み始めた」その場にて傍観していた黒鬼が、静かに告げる。
「なおも修正を望むのなら、――もう、すべてを話すべきではないか」
時 実「…黒鬼殿」
黒 鬼「西皇浄三郎の復活、これは奴自身の怨念というより、“世界を矯正
しようとする悪意”のもたらした事象。――ただひとり、この世界に張り
巡らされた陥穽を知る貴方が黙っているのも、もう限界ではないのか」
黒鬼の言葉に、返す言葉もなくうなだれる時実。そして、
意を決したように――弦を前に顔を上げる。
時 実「弦、くん…これから、私の話を、聞いてくれないか?」
弦 「…あんたの、話?」
時 実「ひとりの、少年の物語だ。ボロボロに傷つきながら、誰よりも強く、
誰よりも激しく、自らの愛する者を守ろうとした…誰も覚えていない、
ひとりの戦士の物語」
弦 「そんな話――」
時 実「私は、彼に選ばれ、この世界に現れた」
時実に向かい、顔を上げる蘭子。
時 実「彼の、守ろうとしていた未来を見つめる者として、彼自身がこの私を
選んだのだ」
藤岡が、イオナが、時実の話に耳を傾ける。
時 実「――そして私は、結果的にブラック・スフィアの陥穽を見つめる者と
してここにいる…」
時実に振り返る遮那。
時 実「“ここでの私”が死んだ、その日から“ここでの私”に代わって。
…もう、20年も昔のことだ」
無言で、腕を組み時実の言葉を聞く黒鬼。
時 実「弦くん、――あの日、君が私を選んだんだよ」
茫然となる弦の表情、ストップモーション――。
(「Destruction16」へ続く)
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