Destruction14―「夢幻彷徨」
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○小笠原諸島、“十字の檻(クロスケイジ)”上空
“十字の檻”の上空を飛ぶ、破導獣軍団母艦、烈華翁。艦首、そこに
位置する砲塔が、眼下の孤島――“十字の檻”へと向く。
撃ち放たれる砲火、洋上に上がる、大爆発――。
蒼空に大きく立ち昇るキノコ雲と、響き渡る三枝博士の哄笑。
洋上に上がる巨大な黒煙を背に、小笠原の海域から飛び去っていく烈華翁。
残ったシーバス・リーガル隊の数機とともに、その飛び去る姿を睨みつけて
いる、蘭子の駆るロイ・フォウドレ。
蘭 子「――指導者イオナたちは?」
吹き飛ばされた島へと、踵を返すシーバス・リーガル隊。と、洋上に立ち
昇る黒煙の中から、上昇してくる巨大な影。翼に黒煙をなびかせ現れたのは、
指導者イオナの擁するICONS空中要塞、ケアクエイルである。
安堵の表情になる蘭子。
一方、ケアクエイル、指令室。烈華翁の飛び去った方向を睨むように
見つめる指導者イオナ、藤岡、そして遮那。
遮那・モノローグ(以下M)「ザンサイバーと弦くんは、三枝博士の手に
堕ちてしまった」カットバック、前回、烈華翁の胸部獣面に喰われる
ザンサイバー。「ザンサイバーを――本物のブラック・スフィアを得た
三枝博士の目的ははっきりしている。西皇丞三郎の狂気の遺産、世界の覇
権を賭けた、西皇48人の子最後の二人の決着だと…」
○サブタイトル「Destruction 14 夢幻彷徨」
○烈華翁内部、ブラック・ファイアプレイス
轟――! 巻き起こる爆発。ブラック・ファイアプレイスの中枢システムに、
潜入した黒鬼の投げつけた手榴弾が破裂したのだ。だが、
爆煙が晴れたそこには、破壊どころか傷ひとつ付いていないままの中枢
システムが、なおもフル稼働状態であることを示す耳障りなまでの機械音
を上げている。
時 実「やはり…駄目か」呻く時実博士。「ザンサイバーを取り込んだこと
で、ブラック・ファイアプレイスが活性化している。システムそのものが
ザンサイバー同様の二次元絶対シールドを展開した状態となってしまった。
これでは手が出せない」
黒 鬼「来るのが少々遅かったか…これさえ潰せれば、烈華翁もここまでと
いうものを」
時 実「残念ながら、小織くんと西皇 静の最後の決戦、止められはしない
か…」苦渋の表情。「こんな、世界を焼き尽くす事態を避けるために20
年前から戦ってきたというのに…事態はかつての時よりさらに最悪な方向に
ばかり進んでしまう。我々は、ここまで無力なのか…?」
黒 鬼「――だが」嘆く時実博士のほうを見もせずに、告げる。「かつて、
同じときも、ザンサイバーは…」
その黒鬼の言葉に、は、と顔を上げる時実博士。
時 実「そうだった、ね…。信じるしかない、ザンサイバーが…弦くんが、
自らこの戒めを打ち破ってくれることを」
○世界中の戦場
空が、紅蓮と黒煙に赤黒く染まった大都会、山地、密林、海、砂漠…。
戦闘を繰り返すことで、世界中を蹂躙してきた三枝博士の破導獣軍団と、
サイレント・ボーンストリングこと西皇 静の無人兵器群。
そのふたつの勢力の巨大多肢兵器たちが、一斉に、炎を上げ踏み潰してきた
戦場から撤退している。
廃墟の中、その去っていく巨大兵たちの背を茫然と見つめている、戦火を
生き延びた僅かな人々。
○太平洋上空
ケアクエイルと、その僚機となる同型の空中要塞が合わせて7機、翼を
並べて飛行している。
指令室。中央の指導者イオナの元に、続々と集まってくる報告。
オペレーターA「モスクワを制圧していた破導獣軍団、全機撤退を確認」
オペレーターB「インド洋の米軍残存艦隊、無人兵器群が一斉に東の方向へ
向かっているとの報告」
オペレーターC「オーストラリア、南米各方面の戦地から、多肢兵器の群が
一斉に海の方向に向かったとの情報が集まっています」
大型スクリーンに映し出されている、世界各地の戦場図。そこから一斉に、
太平洋へと向かっている光点群が表示されている。言うまでもなく、世界
各地の戦場で猛威を振るった、両陣営の多肢兵器が太平洋に集まっているのだ。
藤 岡「ついに、始める気か…世界を焼き尽くした大罪人どもが」
イオナ「では、彼奴等の目的地は…」
イオナの問いに、無言でスクリーン上の一角を指す。太平洋上にあるそこは
…今はボーンに牛耳られた、旧ICONの本拠である巨大人工島だ。
イオナ「かつての我等が居城…ここを決着の地とするつもり…」
藤 岡「そして、この戦いで生き残った者が、約束の地へ赴く資格を持つ…
不可侵戦域、日本アルプスに――」
その場にいた遮那、その藤岡の言葉を聞き、指令室から出ようとする。
藤 岡「何処へ行く」
遮 那「フランメで待機します。指示があり次第、すぐに出撃します」
藤 岡「好きにしろ――餞別だ、持っていけ」
藤岡、自分のシートの傍らに置いていた日本刀を取り、遮那に放る。その
鞘を受け取る遮那。
藤 岡「三枝博士の首――手土産にしてこい」
藤岡の剣を片手に、姿勢を正し、その藤岡に敬礼を返す遮那。
イオナ「斬馬 弦くん…どうか無事で」
○暗闇
ハァ…、ハァ…、息も荒く、暗闇の中を駆けている人影。弦である。その
弦の前に、突然、幻のように現われ立ち塞がる…藤岡。
藤 岡「――何処へ行こうというのだ?」嘲るように、弦に向かって告げる。
「もう貴様は、辿り着くべき場所へと辿り着いたのだ。これ以上行ける場所
などありはしない」
弦 「うっせえ、黙りやがれ!」
イオナ「君は、もう充分に戦いました」
その次に現れたのは、イオナの幻である。そして、
遮 那「これ以上戦う理由なんてないわ」
三 枝「止まれば楽になれるのに」
ボーン「いい加減、休んでいい頃だと思うけどね」
斑天一郎「それとも、我等と同じく地獄に堕ちるか?」
斑地二郎「きひひひ…スス住んでみりゃよ、ケケ結構わーるくないぜ…きひひひ」
斑人三郎「……」
時 実「選択は自由だ。だがこれだけは言える」
黒 鬼「…これ以上走ろうと、もう結果な目に見えている」
弦 「うっせえ…うっせえんだよ…手前ェら全員、消え失せやがれ!」
自身の前に立ち塞がる、あらゆる人間達に向かい、噛み付くように吼え、
一括する。
弦 「俺は止まらねえ! こんな真っ暗でつまんねえとこいつまでも居て
らんねえ! 行かなきゃならねえとこがあるんだよ! 待ってる奴がいる
んだよ! 手前ェらと遊んでるヒマなんかねえんだ!」
優 「誰が、待ってると言うんだい?」その弦を、更に嘲るような声。優だ。
「お前など誰も待ってはいない。だってお前は、救えなかったんじゃないか」
その優の言葉に、ふと、足を止めてしまう弦。
優 「ほら、お前の意思なんてその程度のものだ。――つっぱるなよ、
この闇を抜けたところで、逢える保証などないのだろう?」禁句を口にする。
「――昴ちゃんに」
弦 「――ざっけんじゃねえよ!」そのひと言に、一瞬で火が点く弦。
再び駆け出し、眼前の、優の幻へと向かって拳を振り上げる。
「止まれねえ! 止まってなんかやんねえ! 昴は生きている。手前ェに
言われるまでもねえ、今度は必ず救ってやる! だから、俺が止まっち
まったら…誰にも昴は救えねえ!」
○烈華翁体内
ドクン――、鼓動が跳ねる音が、一瞬響く。
薄暗い、機械構造の詰まった空間。そこに、木の根のごとく有機的に、
歪に捻じ曲がった機械に絡みつかれ、ザンサイバーの巨体が取り込まれている。
だが、そのザンサイバーの双眸は、一瞬空間に響いた鼓動に応じるように、
まだ光を失うことなく明滅している。
○烈華翁、指令室
三 枝「…大した頑固さですこと」
椅子に座り、両耳を覆っていたヘッドセットを少しずらす三枝。その目前の
マルチモニターには、取り込まれたザンサイバーの姿と、そのコクピットの
中、深く目を閉じたまま、繰り思想に唸る弦の姿が映し出されている。
三 枝「これからだってのに…なかなかしぶといわね、弦くん。果たして誰が
説得してくれたら、君は立ち止まってくれるのかしら?」
と、ドン…、僅かに指令室に走る衝撃。
兵 士「三枝博士」三枝の後ろに来た、ひとりの兵士が報告する。「間もなく
要塞島です。しかし敵の軍勢が先制を――」
三 枝「つまらない報告はいいわ。立ち塞がる敵が現れたのなら排除なさい。
真の決着は、私と弟が相対するその瞬間よ」
兵 士「は」
○太平洋上空
烈華翁と、随伴して飛ぶ世界各地から終結してきた破導獣軍団。その目前の
洋上、威容を晒している要塞島。
その破導獣軍団の前に立ち塞がる、やはり世界中から終結してきた無人
兵器群と、無数の移動要塞〈亀甲船〉。
洋上の空を埋め尽くす、世界中の戦場から終結してきた、二大勢力のそれぞれ
機動多肢兵器の群また群…!
無人兵器群の砲撃機、邪骸怒の軍勢がが手にした巨砲、ヘヴンズ・
パニシュメントを上空の烈華翁に向けて一斉射撃。二次元絶対シールドの
防御力の前に撃ち落とすことは適わないものの、着弾時のエネルギー流の爆発が
牽制として機能している。
その間隙を縫って、二次元絶対シールドを貫く最強の槍、ペネトレーターを
手にした無人兵器、邪獣骸の群が烈華翁を取り囲む破導獣どもに一斉に
襲い掛かる。
○要塞島、指令室
ボーン「はてさて、世界の盟主を決めるハルマゲドンだというのに、ずいぶん
と無粋に始まってしまったものだ。もう少し劇的な演出が希望だったのにね」
広い指令室に陣取る、たったひとりの人間。ボーン――西皇 静が気だるげ
に言う。それでも、余裕を隠せない表情を覗かせた。
ボーン「楽しみじゃないか…。姉さんがどこまで、ザンサイバーを…獣の
手綱を握ってられるか」
○太平洋上空
要塞島の周囲、海上に浮かぶ数隻の〈亀甲船〉が、烈華翁の前を阻む
ように集結した。轟! 要塞島に向けて撃ち放たれる、烈華翁の主砲。
烈華翁内部、捕らえられているザンサイバーの、機体表面に迸るプラズマの
紫電、
○暗闇
弦 「ぐあぁぁっ!」
突然、全身を走った電撃的な衝撃に悲鳴を上げる弦。足をもつれさせ、
倒れる。
○太平洋上空
前面に結集した〈亀甲船〉ごと、要塞島に襲い掛かる、烈華翁から撃ち
放たれた破壊の爆流。轟轟轟轟轟……ッ!! 直撃! 海上に上がる大爆発。
だが、
三 枝「…ちッ!」
眼下の海上の様子に、舌打ちする三枝。海面爆発のために噴き上がった、
水蒸気の靄が晴れてきた海面。そこには、数隻の〈亀甲船〉の展開した
シールドによって、主砲の直撃から守られた要塞島の威容が――。
○暗闇
弦 「ちく、しょー…何だってんだ」
苦しげに呻き、なお立ち上がる。その前に、まだ立ちはだかっている優。
優 「まだ立ち上がる気か」
弦 「言ったろ。立ち止まる訳には、いかねえ」
優 「走り続ける限り…今のような苦しみはいくらでも襲ってくると
いうのに」
弦 「こんな身体が、いくら傷つこうが――」優に向かい、拳を揮う。
「問題じゃねえーーーッ!」
その拳の一撃が、眼前に立ち塞がった優の幻を霧散させる。
○太平洋上空
無人兵器群と破導獣軍団、群がる敵機同士がそれぞれ小競り合いを始め、
あちこちで爆発の大火が咲き砲弾の火線が飛び交っている。
その戦闘空域を、超高速で横切っていくスマートなフォルムの戦闘機。遮那
駆るロイ・フランメだ。
遮 那「始まってしまった」
呻く遮那。その目前に、烈華翁の巨大な艦体が近付いてくる。
エアブレーキを開き、機体を空中にて制動、人型へと変形させる。真紅の
大剣、フランメ・ブリセウアーを取るロイ・フランメ。その大剣を巨弓、
ブリセウアー・アークへと展開する。その矢尻の先を、烈華翁の艦橋たる
巨人の半身、その即頭部へと向ける。
遮 那「あの扇一矢射させ給はせるべく候――」
ブリセウアー・アークにつがえられた〈黒破魔矢〉が放たれる。
○烈華翁、指令室
三 枝「まだまだ、ザンサイバーの威力ほどではないわね…」
予想より低かった主砲の威力に、唇を噛む三枝。
回想。12話、関東平野を崩壊させるリュウサイバーの竜の咆吼、
ハウリング・ギガバースト。撃ち放たれた爆流に焼き尽くされていく大都会。
三 枝「あの威力を得るには、ブラック・スフィアだけではない、それを
制御するパーツが必要だというのに…まだまだ完全には堕ちてくれないの
かしら? 弦くん」
手前のモニター、ザンサイバー・コクピット内にて悪夢に苦しむ弦に
視線を向ける。
○暗闇
悪夢。はぁ、はぁ…、なおも息を荒くし、果てない暗闇の中を進む弦。
その足元が黒い泥沼と化し、足にぬかまり絡みついてその足取りを重く
している。
そして、ざわざわ…と、弦の耳にまとわりつく周囲の空間からの呪詛。
止まれ、止まれ…。無駄だ、無駄だ…。自分の知る者たちの声が、十重
二十重に弦の耳に耳障りに響く。
弦 「…うっとおしいにも程があるぜ。ここを出たら、全員に一発ずつ
仕返しだな」
???「――あらら、それじゃ私も殴られちゃいますか?」
その声に――思わず足を、止めてしまう弦。
弦 「お前――!?」
その、薄く微笑む表情を前に、絶句する。
★
三 枝「つーかまえた…」
ほくそ笑む三枝。
★
ついにその足を止め、驚愕している弦の前に、いつもその弦に見せていた
笑顔のままに立ちはだかっている…月島蘭子。
○太平洋上
なおも続く、両陣営の多肢兵器の群による大空を炎に染める合戦。
ガッ! 皇 黄金駆る破導獣ゴウサイバーの鋼爪が、すぐ目前にいた敵機、
空骸邪の細い胴体を砕き、引き千切る。続く飛行型の破導獣軍団、そして
ゴウサイバー同様の人型機であるダンサイバー。
黄 金「単純な防御力なら、二次元絶対シールドを持つこちらが上だ。
一気に攻め押せ」
先頭に立ち、破導獣軍団の指揮を取るゴウサイバー。
と、1機のダンサイバーの胸に、突如飛来した3枚の穂先が突き立った。
三方に拡散する穂先が、ダンサイバーの胸板の二次元絶対シールド上を走り、
ビームの軌跡が “正四面体”を形成、二次元絶対シールドを“破壊”という
法則から逃れられない、三次元上の“物質”へと展開する。
その、シールドを物質化された機体を貫く、プラズマの尾を引く重力子弾――。
黄 金「これは!?」
撃ち抜かれた胸板から爆発を起こし、撃墜されていく僚機を横目に、
攻撃の発せられた方向を向いた。
視線の先、戦空に踊りこんでくる、蘭子駆るロイ・フォウドレを先頭
としたICONSのシーバス・リーガル隊。
○烈華翁、指令室
三 枝「指導者イオナ、ここまできてなお邪魔する気!?」
???「狂った破壊者をのさばらせておくほど、世の中甘くはないわ」
その言葉に、は、と振り向く三枝。指令室入口、鞘に納まった一本刀を手に、
三枝を睨みつけている――遮那。
三 枝「とんだお客様ね…招待した憶えもないのに、どこから潜り込んだ
のかしら?」
★
烈華翁側頭部。そこに装甲に亀裂を走らせ、突き刺さっているロイ・
フランメが撃ち放った矢“黒破魔矢”。擬似ブラック・スフィアを内包した
この矢ならば、二次元絶対シールドを突き破って烈華翁に突き刺さることも
可能だ。そして、突き刺さった“黒破魔矢”にしがみつき、取り付いている
ロイ・フランメ。
★
遮 那「まずは…弦くんは、どこ」
三 枝「月並みな質問ね」
僅かに視線を巡らし、取り込んだザンサイバーの状態を示すモニターを
指す。モニターの中、苦しげに呻くコクピット内の弦。
遮 那「彼をどうする気?」
三 枝「彼もまた、“進化の刻印”としてブラック・スフィアに選ばれた者…
ならば、この烈華翁に取り込んだブラック・スフィアを制御する部品としては
うってつけでしょう」狂気の笑み――。「その心を砕き、自らの意思を
失った人形として」
遮 那「させない――」
鞘から刀を抜く。
三 枝「またこの間のように、返り討ちに逢いたい?」
三枝の白衣の両袖から飛び出し、その手に落ちる二丁拳銃。
○太平洋上空
破導獣軍団と無人兵器群の激戦の中、ロイ・フォウドレをはじめとする
シーバス・リーガル隊が割って入り、黄金の駆るゴウサイバーと衝突している。
ロイ・フォウドレの撃つ重力子弾を、その装甲表面の二次元絶対シールドで
弾くゴウサイバー。
黄 金「戦闘を混乱させて、その隙にというところか。漁夫の利とは浅ましい!」
蘭 子「当然それも欲しいけれど…その前に」
ロイ・フォウドレの後衛の、3機のシーバス・リーガルが手にした
クイール・ランチャーを撃った。飛んだ三枚のクイールの穂先が、
ゴウサイバーの胸板の二次元絶対シールドを破壊可能な物質化する。
蘭 子「お前さえ倒しておけば、サイレント・ボーンストリングと三枝博士、
互いの戦力が拮抗する!」
手のフォウドレ・フシルレズが重力子弾を撃つ。すかさず胸部装甲――
無人制御破導獣ガガバを分離させるゴウサイバー。ゴウサイバー本体を外し、
ガガバのみを貫く重力子弾。
黄 金「戦況を拮抗させ、互いの戦力を疲弊させようというつもりか?――
甘いぞ指導者イオナ、そしてICONS!」
両腕の小型破導獣ソウバを射出するゴウサイバー。その超高速で飛ぶ鋼爪が、
ロイ・フォウドレの後衛の機体を引き千切る。
○烈華翁指令室
三枝と遮那の死闘、始まっている。かたや二丁拳銃、かたや一本刀ひとつ。
至近距離でなければ撃てない武器と距離を選ばず攻撃できる火器。一見大きな
ハンデにも見えるが、その戦いは意外にも拮抗している。
PAN! PAN! 三枝の二丁拳銃が矢継ぎ早に遮那を狙って撃たれる。
床を転がり、巧みに躱す遮那。
カチッ、三枝の右手の銃が力ないトリガー音を打つ。弾切れ、三枝が
空弾倉をリリースして床に落とすのと遮那のダッシュが同時、たちどころの
うちに間合いを詰めてくる遮那。
三 枝「っ!」
抜刀、が、
ガキッ、弾倉を落とした右手の銃が、高速で抜かれる剣の柄を打った。
一瞬剣先の軌道が外され、三枝のすぐ鼻先を掠める。すかさず至近距離から
遮那の腹に左の銃口を押し付けようとする。
だが遮那の反応も早い。剣先を逸らされたと見るや、素早く足を振り上げ、
三枝の左手を蹴り上げた。BANG! 天井に放たれる銃声。三枝の左手を
蹴った勢いで、再び三枝と距離を置き、柱の陰に隠れる。その間にも左の
袖口に仕込んだ予備弾倉を、右手の銃に収める三枝。
三 枝「――流石は西皇の幹部養成施設の出身。幼少時より鍛え上げられた
戦闘技量、並ではないというところかしら」
遮 那「そちらこそ。自分の兄弟を23人殺してここまでのし上がってきた
女王様、決して甘くはないわね」
三 枝「そうね…私と静で46人、それぞれ打ち倒してきた勘定だわね」
弾倉を換えたばかりの右の銃を二発、遮那の隠れた柱へと撃つ。
三 枝「――もう、10年も前になるわね。会長…いえ、お父様の落とし種
48人による、お父様の後継者の座を奪い合う殺し合いが始まったのは」
ぽつり、と告げる。前回冒頭、遮那と黄金の出会いカットイン。「あの頃は、
ちょうど弦くんと同じで、何も知らない…父親が誰なのかも、自分が
どんな立場にいるのか何も知らない、つまらない平凡な小娘だった。いつも
優しかった叔父が突然私を殺そうと狙ってきて…でも、そこに現れたのが彼」
黄金アップ、カットイン。
三 枝「彼もまた、この狂った殺し合いに疑問を持っていたひとり…私と
彼は行動を共にし、この狂った殺し合いをやめさせようと戦った…そう、
文字通り戦うしかなかった――」
三枝の独白の間にも、隙を窺い、剣を構え直す遮那。
三 枝「殺し合いをやめさせようにも――みんなみんな、結局はお父様の
意思に反することを恐れていたのね。そして何よりもみんな知っていた。
自分が生き残るには、自分以外の47人全員を殺すしかないと。――私が
この手で、一番最初に殺したのは京都の泰明くんだったかなあ。親戚の
優しいお兄さんで、ちょっとだけ憧れてもいたっけ。仕方ないわよねえ。
暗闇から得意の弓で私を狙ってきて、こわくて、訳も判らず乱射した流れ玉の
一発に当たってぽっくりだった。あんなに簡単だったのねえ。人の世で
生きることの最大のタブー…人を殺すことなんて」
剣を構え直す気配を察したのか、更に威嚇で二発撃つ。床に転がるように
飛び出す遮那。
三 枝「そうそう、剣術が得意だったのは曜子ちゃんだった! 昔から剣道を
嗜んでいて、私がいじめられていたらすぐ助けてくれるぐらいの親友だった
!」遮那の転がる先を追うように撃つ。その顔に、歓喜の表情が張り付いて
いる。「褒めてあげるわ! 同じ獲物で、あなた、確実に曜子ちゃんより
強いわよ!」
カチッ、カチッ、弾切れ。その隙に別の柱の陰に逃げ込む。今度は迂闊に
飛び出すことなく、様子を窺う遮那。
三 枝「――博隆くん、衡平叔父さん、澄香叔母さん…思えばみんな、あんな
殺し合いに巻き込まれることを知っていて何かしら武道を嗜んでいたのかしら
ね…でもね、みんなが何年もかかって、生き残るために修得してきた技術
が、こんな小娘の撃った鉛弾一発でジ・エンド」再び弾倉を交換する三枝。
「自分の知ってる人たち…もちろんまったく顔も知らなかった人たちもいた。
そんな人たちがみんな、小娘の撃った鉄砲の前にあっけなく死んでいくの…嫌
だったな。何でこんなことになっちゃうのか、判らなかった…いい加減神経が
マヒしてきて、自分が生きるのさえ億劫になりかけた…」
銃口を、再び遮那の隠れた柱へと向ける。
三 枝「――でもね、あの人は私に言ってくれたのよ! それでも、僕たちは
生きよう。僕たちは生きて、西皇の思惑など跳ね除けてみせようって!」
ダッ、駆け出す三枝。一気に柱の陰を撃てる位置まで飛び込み、二丁拳銃を
撃ち放つ!「彼が私を救ってくれた! 人殺しの狂気に呑み込まれかけた
私を人間でいさせてくれた! 私を愛してくれた! そして私も彼を愛した
――! だからっ!」
弾丸をひととおり撃って、は、となる三枝。確かにこの柱の陰に隠れた
はずの遮那が、いない。文字通り姿が掻き消えている。
遮 那「だから――何?」
その声に、視線を上げる三枝。その柱の天井近く、剣を手に、三枝を
見下ろす位置へと貼り付いている遮那。天井を蹴り、跳躍。上段から三枝へと
切りかかる。その思わぬ方向からの奇襲に、三枝も銃口を向けるのが間に
合わない。
ガキッ――! 金属同士の激しく打ち合う音。とっさに、交差させた二丁
拳銃の銃身にて遮那の刀を受け止めている三枝。
三 枝「だから――私はこの戦い、最後まで勝ち残るッ!」
同時に上がる、三枝と遮那二人の脚。互いを蹴ろうとした脚が二人の間で
激しく衝突、その反動にて跳び離れる二人。すかさず三枝が撃ち、遮那が
低い姿勢からその懐へと飛び込んでくる。ガキッ、遮那の振り抜こうとする刀、
その柄に右の銃床を叩きつけて封じる。
三 枝「私は、私の愛した人を殺した弟を許せない!」
回想。10年前、まだ少女という面影の三枝、絶叫。その目前、心臓を
撃ち抜かれ倒れる黄金。その先に、銃を構え無邪気な笑顔を見せている。
当時まだ10歳の少年――西皇 静。
三 枝「だから私は弟を殺して仇をとる! そして西皇の遺産を受け継ぎ、
この世の理すべてを手の内にする! 生命の理すらも捻じ曲げて、この艦に
乗り込んだ複製なんかじゃない、私の愛した、本当のあの人を生き返らせて
みせる! ――それだけが私の願い! “十字の檻”に入りザンサイバーを
完成させたのも、お父様に取り入って西皇コンツェルンを仕切り、破導獣
軍団を生み出したのも、すべてはこの願いのため! 10年、10年かけて
きたこの願いももうすぐ叶う! それを今更お前たちなんかに邪魔されて
たまるもんかーーーっ!!」
遮那を跳ね飛ばし、更に撃つ。床を転がり続けて躱す遮那。
遮 那「そんな願いなんかのために――私の兄は犠牲になった!」
ダッ、床を蹴り一気に間合いを詰める。
三 枝「この願いのためなら、いくらでも犠牲なんか増やしてやる!」銃を
手に、文字通り迎え撃つ。「弦くんも――もうすぐその犠牲のひとりに
なってくれるわ」
遮 那「――っ!?」
一瞬の油断。銃弾が、遮那の左肩を撃ち貫く――。
○暗闇
蘭 子「いいかげん、現実を認めたらどうですかー?」
弦 「やめろ…」
悪夢。蘭子と対峙する弦。その蘭子の前で、立ち止まり、膝の震えを抑え
られないでいる弦。
蘭 子「どれだけ戦い続けたところで、肝心の昴さんはどこにいるの? その
彼女を探し出すまで、君の命は果たして持つのかしらー?」
弦 「やめろ…」
蘭 子「残された時間までに、昴さんを見つけ出し、この戦いすべてに決着を
つける…ずいぶんな望みですよねー」
弦 「頼む、もう――」
蘭 子「もう、君に――」冷酷な笑みを浮かばせる口元。「昴さんは救えない」
弦 「――やめてくれっ!」
耳を抑え、かぶりを振る。なおも、冷酷に弦を追い詰める蘭子。
蘭 子「あらー、親友の優くんの言葉も聞いてくれないのに、私の言葉は
聞いてくれるんですねー。ちょーっと嬉しかったりしてー」あくまで、あの
脳天気でもあるフレンドリーな態度は崩さない。「そうですよねー。弦くんに
私の言葉は無視できませんよねー」
一歩、弦ににじり寄る。その歩調に合わせるように、力なくあとずさる弦。
蘭 子「だって君は…目の前で、私が殺されるのを救えもしなかった」
弦 「っ!」
弦の脳裏に甦る、昴の顔をした蘭子が、“十字の檻”の施設屋上から落ちて
いく光景。
蘭 子「私が頭を撃ち抜かれ、地上へと落ちていくのに…君の手は届きも
しなかった」
弦 「お、俺…」
蘭 子「君はただ見つめていただけ」
弦 「俺…」
蘭 子「その目を見開き、茫然と、私が死んでいく光景に言葉を失っていただけ」
弦 「俺は、俺は…」
蘭 子「そんな君が――今更、妹さんだけは助けようっていうんだー」蘭子の
口元に貼りつく微笑。「女ひとり助けてくれなかった君が、その今にも力尽き
そうな頼りない命で、昴さんだけは助けようって? やだー、すっごく
身勝手な話ー。――私は見殺しにされたのに!」
絶叫。その叫びに、屈し、ついにひざまづく弦。
弦 「あ、あああ…」
蘭 子「ひどいわよねえ! あれだけ君を助けてきた私が殺されるのを、君は
ただ茫然と見ていただけだもの! 手を差し伸べてもくれなかった
! 駆けつけてもくれなかった! 君はあの時、自分の戦いに夢中で、
私のことなんて忘れていたんだものね!」
ついに、呻くどころか言葉も失う弦。
蘭 子「はああ…生きていたかったですよー。やりたいこといっぱいあり
ましたですよー。…まあ、どうせその命も長くはない君には、償うことひとつ
出来はしませんですけどー」
ひざまづき頭を垂れ、完全に、自分の前に屈服した弦を見下ろす。表情に
あるのは慈愛の欠片もない冷笑。
蘭 子「そうですね…もう、いいですよ…」その、弦の傍らに腰を降ろし、
うなだれる耳元に囁く。「昴さんを救えないまま、無力な自分を悔やんで、
その身体が朽ち果てるのを待っているだけ…そんな無意味な生き方からは、
もう開放してあげます」
弦 「……」
その、蘭子の言葉に、少しだけ顔を上げる。
蘭 子「もし、私に、少しでも償いたいって気持ちがあったら…もう残った
命で、私だけを見てください。戦いも、すべてを忘れて、君に残された時間を
私だけにください」
弦 「…償、う…」
蘭 子「そう」
弦 「…忘れ、て…」
蘭 子「そう」
弦 「……」
蘭 子「辛いこと、苦しいこと、なにもかも忘れて…私のためだけに君は
その時間をくれればいい。二人で、戦う必要もない静かに生きていける場所
に行くだけ…そのために」
すがるように、蘭子に注がれる、弦の視線。
蘭 子「君は、私の前で、こうひと言だけ言えばいい…それだけで、君は、
君を縛るすべてから開放されるんです」ささやき――、「昴は――もう、
どこにもいない、って」
聖母の笑み。
その、自身を救ってくれる少女の顔を、じっと見つめる弦。
ふと、脳裏に浮かぶ。
いつか、彼女自身が弦に言った言葉。
蘭子、M「――私、それ、かわりに聞きたい」
弦 「なあ…聞いてくれるか?」目前の蘭子に、告げる。「俺の、俺の夢
は――」
○太平洋上空
ゴウサイバー対ロイ・フォウドレ。ガンッ、ゴウサイバーの両腕から
放たれたソウバが、ロイ・フォウドレの背後を強襲した。衝撃に空中での
姿勢を崩すロイ・フォウドレ。
黄 金「手間をかけさせてくれた!」その好機を逃さず、一気にロイ・
フォウドレと距離を詰めてくるゴウサイバー。「死ね!」
その脚を大きく振り上げ、踵をロイ・フォウドレの頭部――コクピットに
叩きつけようとする。刹那、
黄 金「っ!?」戦場に割り込んでくる影。ペネトレーターの長槍を手に、
ゴウサイバーへと突貫してくる1機の邪獣骸。「邪魔だーーーッ!」
高速で飛来してきたソウバが、その敵機の直上から突撃。頭部を潰し、真上
から胸部に抉りこむ。爆発――。
その手から飛ぶ長槍を、ロイ・フォウドレの手がキャッチした。
○暗闇
蘭 子「今更どうでもいい話じゃない」
その、告げたばかりの弦の言葉を、嘲笑する蘭子。その笑い声を、
ひざまづいたまま、黙って聞いている弦。
蘭 子「つまらない話はいいわ――さあ」
その手を差し伸べる蘭子。
弦 「そう、だな…」
弦、呟く。蘭子、そのふとした弦の声にいぶかむ表情を見せる。
くくっ…、ついに、弦の口元から漏れる、乾いた笑い。
弦 「どうでも、いいような話…だよな。つまんねえ、話だよな…でも」
蘭 子「でも?」
弦 「あいつは、『聞きたい』って――言ってたんだよ」
パンッ! 払い除けられる、自らが弦に差し伸べた手。その様を、信じ
られないという表情の蘭子。
そして、逆に伸ばされた弦の手が――その蘭子の首を締め上げる。
蘭 子「弦、くん…!? 苦しい…」破壊的な握力で首を締められ、苦悶の
顔になる。「くる、しい…くるしいよぉ…」
弦 「――あいつは、俺の知ってた月島蘭子は、死んだんだ!」もはや弦に、
目前の蘭子の言葉は届かない。「妹ひとり守れねえ情けない俺に代わって、
命がけで昴を守ってくれて、笑って死んでいったんだ!」
弦の脳裏に浮かぶ、昴の顔をした蘭子の、最期の瞬間の――笑顔。
弦 「そんなあいつの気持ちを…思いを、あいつの顔と声で馬鹿にした
手前ェは絶対許せねえ!」
自らを謀った、蘭子のニセ者に一切の容赦のない怒りをぶつける。その
突き出された手刀が、蘭子のニセ者の、柔らかい腹に突き込まれた――。
○太平洋上空、烈華翁
弦の手刀が、蘭子の腹を貫いたのと同時、
バリリッ…! 烈華翁の胸部獣面の口腔、閉じた牙を突き破り、飛び出す
鋼の手刀――。
★
指令室。
三 枝「何っ!?」
★
ブラック・ファイアプレイス。そのシステムの唸りが急激に低下していく。
時 実「弦くん…」
★
ケアクエイル。
イオナ「弦くん!?」
藤 岡「ずいぶんと寝坊だ」
その藤岡の厳しい表情、口元にかすかに笑みが見える。
★
要塞島。
ボーン「ここまでだよ…姉さん」
★
烈華翁胸部獣面から突き出てきたザンサイバーの手刀。ギギギ…、その鋼の
手が、自らを閉じ込めた烈華翁の口腔を、信じ難いパワーでこじ開けていく。
やがて、こじ開けられていく口腔の中から姿を見せる、全身に絡みついた
機械の蔓を引き千切った状態のザンサイバー。その双眸は、乗り込んだ飼主
――弦の怒りと闘志を受けて力強く輝いている。
弦 「…母ちゃんの腹に収まるほど、小っせぇガキじゃなくってよ…」
弦の口元に浮かぶ、凄惨な笑み。その目に宿るは猛き怒り。
轟――! ザンサイバーの背部ブースターから爆炎が噴き上がった。今の
今まで自身を閉じ込めていた、烈華翁の口腔から飛び出し、戦場へと躍り出る
ザンサイバー。
たちどころに群がってくる破導獣軍団。が、その肩から抜かれた巨斧、
戦刃クロスブレイカーがものともせず蹴散らしていく。
大空に響く、鋼の獣の咆哮…!
○烈華翁、司令室
三 枝「馬鹿な、どうして、――っ!?」
斬! その、信じ難い事態を前に、虚を突かれて立ち止まった一瞬、
左肩を撃ち抜かれ、右手一本で揮われた遮那の太刀が、三枝の背を斬っていた。
遮 那「――弦くんを甘く見たわね」
○太平洋上空
轟! 轟! 烈華翁の主砲から、ザンサイバーを狙って砲撃の火線が飛ぶ。
取り込んでいたそのザンサイバーを失い威力こそ充分でないものの、その
破壊力そのものは火線上の多肢兵器を数機巻き添えにするには充分なものだ。
弦 「うぜえっ!」こちらを撃墜しようとしつこく撃ち放たれ、着実に
包囲を狭めてくる砲火を前に、当たりはしないものの自在な空中機動を
抑えられた状態のザンサイバー。「上等、逆にこっちが撃墜してやらあッ!」
ザンサイバーの機体に迸るエネルギー。その余剰に溢れ出したエネルギー
がザンサイバーの周囲にて空気爆発、群がってきた敵機数機をまとめて
吹き飛ばす。
そして、ザンサイバーの機体自体にも変化が起きる。伸びる二本の竜の
鎌首、その竜の背に乗る、獣の顔そのものを胸板とする騎兵の半身。
ザンサイバーの砲撃形態、リュウサイバーだ。
弦 「ブッ飛びやがれ!」
リュウサイバーのふたつの竜の口腔から砲撃が吐き出される。大気を焼き、
迸る爆流が軌道上の敵機を撃墜しながら烈華翁を狙う。なまじ的が大きい
ためか、避けきれず艦体を直撃する砲撃。その直撃に艦体に大穴が穿たれ、
全長700メートルの烈華翁の巨体が宙で傾く。
○烈華翁、指令室
DON…! そのリュウサイバーによる攻撃の衝撃に、大きく揺れる室内。
遮 那「ぐっ!」
たまらず、負傷した左肩から壁に激突する遮那。ふと目を開くと、背中を
斬られた三枝が、ふらふらと室内から出て行くのが見える。
遮 那「…ひと太刀、浅かった」
呻き、三枝を追うべく駆け出す。
○太平洋上空
弦 「オラ、オラァッ!」
轟、轟! 二射、三射と続けざまに砲撃を撃ち放つリュウサイバー。その
衝撃波を伴う砲撃が、烈華翁に届く以前に、宙空で小競り合いを続ける破導獣、
無人兵器と構わず撃墜していく。
黄 金「調子に乗るな、ザンサイバーっ!」
そのリュウサイバーに、2機のダンサイバーを伴い襲い掛かってくる
ゴウサイバー。随伴するダンサイバーから破甲刀を受け取り、接近戦で
リュウサイバーに斬りかかる。
弦 「っ!」
黄 金「その形態、接近戦には向かまい!」
弦 「甘ぇっ!」
ゴウサイバーが斬りかかる寸前、リュウサイバーの首――ザンサイバー時の
脚部のバリアブル・ロッド予備ホルダーが開いた。後方に飛び出した
バリアブル・ロッドの鉄棍を、リュウサイバーの背の騎兵の半身が掴み取る。
瞬間、戦刃クロスブレイカーへと変化する鉄棍。体格に見合わない巨大な斧
を振り回し、ゴウサイバーの揮ってきた破甲刀を受ける。
黄 金「なにっ!?」
弦 「甘く見るなってんだよ!」
小型の半身のものとも思えないパワーで、ゴウサイバーを跳ね返す。と、
蘭 子「お前の相手は私だーーーっ!」
ペネトレーターの長槍を手に、その場に飛び込んでくるロイ・フォウドレ。
そのペネトレーターの三叉の穂先が、ゴウサイバーの右肩を強襲する。
穂先開放、二次元絶対シールド三次元展開。二次元絶対平面から三次元上の
物質と化したシールドを、ペネトレーター本体から打ち出された鉄杭が砕き貫く。
ズンッ! ゴウサイバーの右肩に喰らいつく鉄杭。
黄 金「ちいいっ!」
舌打ちする黄金。と、
DOOOOON…!! 戦場の空に、重々しい唸りが響く渡った。上空の
烈華翁からだ。
その烈華翁から、一瞬、宙空に向かって放射される空間を陽炎のように
歪ませるまでの波動。そして烈華翁艦内。艦内の動力、電気といったシステムが
一斉にダウンしていく。
動力さえも停止し、その巨体を降下させていく烈華翁。
弦 「これは…?」
○烈華翁艦内、ブラック・ファイアプレイス
巨柱のようにそびえ立つ中枢システムが炎を上げ、あちこちが小爆発を
起こしている。その中枢システムを、渦のように取り巻くガラスのシリンダー
の群。そのほとんどが砕け散り、中から、血を流す白い肢体が覗いている。
壁際のキャットウォークより、その、自分達の手による破壊の様を
見つめている時実と黒鬼。
砕けたシリンダーから覗く、言葉なき、少女達の血まみれの肢体を前に嘆く。
時 実「…許してくれ」
黒 鬼「時実博士、急ぐぞ」
○太平洋上空
弦 「堕ちやがれェッ!」
再度火を吹くリュウサイバーの砲火。その火線が数機の敵機ごと一直線に
戦場の空を貫き、ついに烈華翁の左翼を直撃、爆発と共に叩き折る。
○烈華翁艦内
すべての動力が落ちた艦内。そのリュウサイバーの一撃の前に激しく
揺さぶられる。
背に深い傷を負い、息も絶え絶えに通路を行く三枝、その衝撃を受けて転倒
する。
○太平洋上空
艦体のあちこちから炎と黒煙の尾を引き、墜落していく烈華翁の巨体。
その落下していく先は、なんと、つい先程まで攻めあぐねていた要塞島である。
その要塞島を守護するはずの〈亀甲船〉、なぜかシールドを張り巡らせる
こともなく、その烈華翁の島への墜落を許すかのように要塞島から
距離を置き離れようとしている。
ズン…! 要塞の表層の構造を大きく打ち砕き、巨大な衝撃と共についに
要塞島の上へと落ちる烈華翁。
烈華翁の艦体のみならず、要塞島のあちらこちらから爆発と火の手が上がる。
黄 金「潮時か」
呟き、自機ゴウサイバーの右肩に刺さった鉄杭を引き抜き、捨てる。その
まま離脱しようとするゴウサイバー。
弦 「逃げる気かよ!」
リュウサイバーとロイ・フォウドレが追おうとする。その前に立ち塞がる、
先程ゴウサイバーに随伴してきた2機のダンサイバー。
弦 「どきやがれーーーッ!」
リュウサイバー、ザンサイバーに変形――。
○烈華翁艦内、通路
三 枝「なんという…ことを…」呻き、今まで倒れていた床の上から、壁に
身を預けるように立ち上がる三枝。「ああ…烈華翁が…これでは、これでは…」
???「――三枝博士、ご無事でしたか」
その三枝の元に駆け寄ってくるひとりの兵士。その姿に、かすかに安堵の
表情を見せる三枝。銃声。
三 枝「…え?」たった今、起きた事態を信じられない、という表情の三枝。
「どう…して…」
自らの腹を抑える。その腹を押さえた指の間から、溢れ出る真紅の血。
三枝に銃を向け、たった今、三枝を撃った兵士――黄金の複製のひとりが
そのメットを取り素顔を晒した。自分の腹に穿たれた風穴を抑え、愕然と
なっている三枝。
そこへ、やっと三枝に追いつき、駆けつけてくる遮那。その遮那も、目前の
事態に目を剥く。
三 枝「馬鹿、な…」遮那が追いついてきたことにも気付かず、すがる
ように、黄金の複製のひとりに手を伸ばす。「だって…あなたは…」
黄 金「そう、僕はあなたを殺すことは出来ない。そういう風にあなたに
造られた」
くくっ、と冷笑を漏らす。
???「そう――“姉さんに造られた彼”、ならね」
は、となる三枝と遮那。今、黄金の背後から聞こえたこの声は――、
その、三枝の疑問に答えるかのように、黄金の背後から姿を現すボーン
…西皇 静。
三 枝「静…あなた、まさか…彼に…」
ボーン「ご名答。姉さんの配下である彼との密約の元、僕が彼の戒めを
解いた。…裏切ること出来ないという、姉さんによる戒めを持たない、
“あなたを殺せる皇 黄金”をね」
三 枝「密約…ですって…?」
その三枝の、愕然とした声に、満足げな表情の黄金。
黄 金「僕と西皇 静、あなたの弟との密約…それは僕自身の、あなたという
支配者からの完全なる自由ですよ」
三 枝「嘘…」
ボーン「死んだ男の身代わりに、姉さんを慰め続けるだけのために生まれた
命だ。そんな人生、誰だって御免だからね。――僕には判るなあ、彼の気持ちが」
たまらず、哄笑する黄金。その笑い声に、膝を着く三枝。
三 枝「…こが、ね…」訴える。「…たしかに、本物の、あの人の…身代わりと
してあなたたちを造ったかも、知れない…それでも、あの人と、限りなく
近い、存在だと…思っていた…あなた達を…愛していたのに」
ボーン「教えてあげようか? 10年前、西皇の血筋による殺し合いが始まって
すぐ、本物の皇 黄金は僕と密約を交わし、彼は何も知らない小娘だった
姉さんに近付いた。大した役者だよ。姉さんという手駒を得て、自分が
生き残る確率を上げるためにね。そして…」冷酷な事実。「僕との対決のとき、
本来彼はあの場で、土壇場であなたを殺す手筈だった…」
回想カット。10年前、皇 黄金を射殺する、10歳の少年、西皇 静。
○太平洋上空
弦 「だぁぁッ!」
一閃! 戦刃の一撃が、ザンサイバーの眼前に立ち塞がったダンサイバーを
両断した。
その横では、ロイ・フォウドレの乱射する重力子弾をものともせずもう
1機のダンサイバーが襲いかかろうとしている。
弦 「野郎ォッ!」
右腰のウェポンコンテナからワイバレルを取った。GAOM! ザンサイバー
の右腕そのものに強烈な負荷をもたらし、次元波動のエネルギーを帯びた
銃弾が、一撃でダンサイバーの二次元絶対シールドを破るどころか、その
上半身を文字通り四散させる。
○烈華翁艦内、通路
遮 那「10年前、自分を裏切り、殺した男と手を組んだと言うの!?」
たまらず、三枝の後方から遮那が叫ぶ。
黄 金「それは“本物の”皇 黄金の話だ。10年前に死んだ時点で、彼は
西皇の遺産を手にする資格を失った。少なくとも、その恨み言については
“今の僕”には関わりのない話だ」
ボーン「――そして彼は、死んでもなお自分を支配し続けようとする姉さんを
許せなかった」
惨めにひざまづく三枝に、冷たい視線を向ける。
三 枝「どうして…あなたが」涙声で、嘆く。「10年前…彼を殺したの…?」
ボーン「決まっているだろう? 今、こうして生き残り、一対一の対決に
なったとき――簡単に殺せるのは姉さんのほうだからさ!」
哄笑、
遮 那「お前――!」
刀を手に駆け出そうとする遮那。が、黄金、その遮那の足元に向かって銃を
撃ち、牽制する。
ボーン「では、これでさようならだ、姉さん」
黄金の銃口が三枝の額に押し付けられる。刹那、銃声。
黄金の背に打ち込まれる数発の銃弾。見ると、通路の奥から、ハンドガンを
手に駆けてくる黒鬼。さらにその後ろからは不自由な脚を引きずる時実が続く。
ボーン「黒鬼!」
ボーンの傍らにて倒れる黄金。そのボーンに向かい、刃渡り30センチと
いうナイフを抜き、斬りかかる黒鬼。そのボーンの、頭を庇う腕に斬り込む
ナイフ――、
ガッ! 金属同士の激しい激突音。そのボーンの腕に止められているナイフ。
その裂かれた袖から、何やら鋼鉄の棒状の物体が覗く。
黒 鬼「――!?」
刃物を弾かれたと見るや、僅かに引く黒鬼。その黒鬼の目前でボーン、
袖に隠していた自らの得物を手に取った。長さ30センチといった鋼鉄製の
棍が二本、それが棍の端と端を、20センチ程度の鎖で繋がれている。
古武術の武具、ヌンチャクである。
自らの得物を両手で構え、それを威嚇するように俊敏に舞わせてみせる
ボーン。その鉄棍の空を切る型は高速にて華麗。
その華麗な型に魅せられるまでもなく、手にした刃物で果敢に斬りかかる
黒鬼。が、その銀刃に向かって揮われた鉄棍が、見事に刃物をブロックする。
黒 鬼「できるな――」
ボーン「あなたほどでは」
にやり、と笑み、左腕を揮うボーン。左袖に隠されていたもうひとつの
ヌンチャクが、高速で揮われ黒鬼を強襲しようとする。
流石に、素早く後方へと飛びその鉄棍を回避する黒鬼。その隙に、その場
から走り去るボーン。
黒 鬼「西皇 静――!」
ボーン「これで、これですべては僕のもの――西皇の遺産、日本アルプスの
“遺跡”を手にし、この世の理、すべてを好きにする資格。感謝するぞ
ICONS、感謝するぞザンサイバー!」
遮 那「貴様!」
立ち止まり、振り返るボーン。そのボーンのすぐ前に、突如として姿を
現す影。きひひひ…。下卑た笑いに、両手にはサブマシンガン。狂気の
銃火器使い、斑地二郎である。
ボーン「そして…姉さんはここに、烈華翁を持ってきてくれた…ああ、いくら
感謝しても足りないよ」
遮 那「何を――言っている!」
ボーン「これこそが、日本アルプスに攻め込むための、最強の戦力となる…」
黒 鬼「おのれ――西皇 静!」
○太平洋上空
ザンサイバーに向かって、一斉に集まっていく敵機の群。
弦 「夏の羽虫じゃあるめぇし、いい加減にしやがれ手前ェら!」
怒り心頭とばかり、左腰のコンテナからエクスバレルを取る。右手の
ワイバレルと併せ、ザンサイバーの両手に揃う〈十字砲火
(バスター・クロス)〉。扱うザンサイバーそのものをも砕こうとする
凶悪なる火器。悪意をばら撒き、殺意を貫き通す忌まわしき二丁拳銃。
弦 「一斉駆除だ、地獄ゥ見やがれ!」
GAOM! ワイバレルから稲妻のごとく一直線に奔る弾丸と、
エクスバレルから炎を纏って撃ち放たれる散弾の嵐。
轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟――!
一斉に、大空に咲く破壊の大火。
○烈華翁艦内、通路
斬! 黒鬼のナイフが、迂闊に飛び込んできた斑地二郎の首を斬った。
頭と首、それぞれ切られた断面から火花と小部品を散らし、機械仕掛けの
暗殺者、その残骸が床に倒れる。
しかし、その暗殺者の雇い主であるボーンの姿は、もうどこにもない。
時 実「小織くん!」
時実が、不自由な片足を引きずりつつ、腹を撃たれて倒れた三枝の側に
寄ろうとする。その時実に向かい、首を横に振る遮那。既に腹の撃たれた傷で、
もう、彼女は助からない。
時実の代りに、倒れた三枝の側に立つ遮那。その虫の息の三枝の口から、
力ない笑いが漏れている。
遮 那「懺悔の言葉なら、聴くわよ」
三 枝「今さら…もう…何を悔やめと、言うの…」
虫の息で、なおも、乾いた笑みを漏らす。その目線の先、背中を撃たれ、
倒れ先に絶命した黄金――その複製のひとり――の死に顔がある。
三 枝「…幸せ、だったのよ…10年前…あの人と過ごした、僅かな、時間
…血塗られた時間だったけれど…一番、幸せな、時間…」
遮 那「そんなもの――」ギッ、と歯を鳴らし、三枝に剣の切っ先を向ける。
「そんなもの!」
回想カット。遮那の目の前、スクリーンの映像、ザンサイバーのコクピット
内にて光の粒と散り、喰われていく自分の兄。
三 枝「…すべては、夢…すべて…幻…」
その言葉を漏らし、虚ろな目に黄金の顔を焼き付け、三枝の頭が力なく
垂れる。
遮 那「…言いなさいよ」ギリ、と歯を噛み締める。「…言いなさいよ。
兄に、謝罪を…」
無言で、その二人の女の姿を見つめるしかない時実。
と、
ゴゴゴゴ…、動力を失い、要塞に墜落した烈華翁。その艦体が、低い唸りと
共に小刻みに震えだす。
時 実「これは…」
黒 鬼「いかん、叶、時実博士、長居は無用だ」
○要塞島上空
弦 「何が…起きてやがる?」
眼下の光景に、思わず唸る弦。烈華翁の墜落を受け、大被害を受けたと
思われた要塞島。その烈華翁の墜落を受けた箇所、地下から“何か”が
盛り上がり、烈華翁の巨体を、その艦橋と言える人型の半身を中心に持ち上
げようとしている。
ギギギ…、下方からの無理な圧力を受け、へし折れかける烈華翁の艦体。
構わず、その烈華翁の中枢――巨大な人型の半身を持ち上げるかのように、
“地下から生えてきた構造物が姿を現そうとしている”。
★
上空、取り付いていた烈華翁から離脱している遮那のロイ・フランメ。
コクピットの遮那が、そしてその機体の手に乗っている黒鬼と時実博士が、
眼下の圧倒的な光景を凝視している。
★
ケアクエイル。指令室にてその様を見つめる藤岡と指導者イオナ。
イオナ「――そういうことか!」珍しく、声を荒げる指導者イオナ。
「ボーン…いえ、西皇 静…。どこまで、どこまでも他者の築き上げてきた
ものを、恥ずかしげもなく我が物にしようというのか…」
★
ついに、ふたつにへし折れる烈華翁の艦体。その間の中枢を持ち上げる
巨大構造物が、その姿を現そうとしている――。
(「Destruction15」へ続く)
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